飛翔の時
いつの間にか、庭はセミの抜け殻だらけになってしまった。ちょっと葉っぱをめくると、「おや、いらっしゃいましたか」という感じ。そのせいで、自分の席がなくなったわけではないのだろうけど、時にはこんな変り種もいる。夕刻、買い物から帰ると玄関先の鉄椅子でがんばってました。
セミの羽化。背中が割れて真っ白な体が出てくる瞬間は、本当に感動的。でも初めて見た坊やはびっくりして、事態が飲み込めない。「これ何の虫、セミが食べられちゃったの?」なんて聞いている。私もそうだったからね。
あれは小学生時代の夏休み。夕方、林で小便していると、木の根元に白い物体を見つけた。しゃがんで見れば、まさに殻から抜け出ようとしているセミ。その緑がかった色の美しさに驚き、変身を数時間見守ったのだった。しかし、私はそのうち大失敗に気づいた。少しかけてしまったらしい。彼の羽は曲がり、飛べなくなってしまったのだ。
そんな苦い思い出があるから、今回は慎重。指を伸ばそうとする坊やを制したり、寄って来るアリを撃退したり、まるで彼のガードマンだ。
無事に羽化を済ませ、羽が乾いた彼は、緑のきれいなミンミンゼミ。しばらくすると、昔の申し訳ない記憶と一緒に飛んでいった。
Recent Comments