残り香
六国見山はすっかり若葉の輝きに覆われて、初夏の雰囲気。ついこの間まで、我が家の前で八重桜を摘む人を見かけたのに。季節が過ぎるのは早いもの。でも人の心はそうあっさりとは変われない。もう少しのんびり行く春を楽しみたい。
桜の塩漬け。塩とレモンに数日漬けて、庭で半日ほど天日干しすればできあがり。干している間は辺りに桜の香りがぷーんと漂って、ハンモックの親父はすっかり夢心地。この香りは少し酒に酔ったような気分にさせる。
それにしても桜にこんな香りがあるって知っていた? ドンちゃん騒ぎの花見では桜の真価はわからない。色も見事。レモンの効果でほとんどショッキングピンクに染め上がった。桜湯にするか、吸い物にするか。いろいろ使いようがあるのもうれしい春の残り香。
ふと気がつけば、家人と坊やがハンモックの脇でニヤニヤしている。眠ってしまったらしい。体を起こすと、坊やが何やら差し出した。桜のおはぎ。さすが家人。桜の塩と餡子がこっくりと溶け合って、これはたまらんという感じ。
「今夜はこのお酢を使って、何か作ってみようか」。家人はさらに桜色に染まったお酢を顔に近づけてきた。ふむ、この香りもたまりませんな。晩の献立でも考えながら、ハンモックでもうひと寝入りしますか。「散る桜 残る桜はおいしくいただきます」。良寛さんに怒られそうな春の午後。
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